今週は今年度の野外調査スケジュールを考えています.ここでは2016年度の主な調査予定3つを紹介します.
①日本海東縁歪み集中帯調査(新潟県中越地域)
新潟県中越地震(2004年),中越沖地震(2007年),などの内陸地震発生も記憶に新しいところであり,この地域は日本列島でも非常に歪みが進行している(歪み集中帯)と言われています.現在の歪みの進行具合を明らかにすることがターゲットです.新潟では冬は雪のために調査ができないため,春~秋の時期に調査が限定されてしまいます.積雪がひどい場合はGWまで調査に入れないこともあります.
この川崖で見られるこの露頭(水平方向におよそ200mくらいの長さ)は,第四紀に形成されつつある,いわゆる活褶曲(向斜:下に地層がへこんだ凹の構造)です.褶曲構造は,大雑把にいうと,地層が横からの圧縮(押し)によってたわんだ構造のことです.
上に凸の褶曲構造(背斜構造と言います)では石油がこの凸の部分に貯まりやすくなっていて(石油が褶曲構造にトラップされるとよく言います),新潟県は国内で数少ない石油が採れる場所です(その他の地域では,秋田県と千葉県).写真の露頭では地層に鼻を近づけると石油くさいのが分かります.
②延岡衝上断層調査(宮崎県北部)
「延岡衝上断層」という過去の大規模地震の痕跡が残る断層がターゲットです.この断層は,南海地震や東南海地震などの海溝型巨大地震を引き起こすプレート境界から派生した分岐断層(過去の)と言われています.おおよそ地下8kmほどの断層の姿を残していると言われています.
南海トラフ地震発生域掘削計画(
web site)が行われていますが,地下8kmまで掘り抜くまでには当分時間がかかるため,陸上で過去の断層の痕跡をよく調べておこうという目的です.ここでは海岸によく地層が露出しているので,潮の満ち引きを考えながらの調査となります.
写真中央部の黒っぽい部分が断層運動によって岩石が擦れて細粒化した粘土です.何度も繰り返して断層が動くことによって厚い粘土層ができると考えられています.
③南琉球弧調査(沖縄県先島諸島)
琉球列島には,約100万年前のサンゴ礁の地層(琉球石灰岩)を切る断層が多数観察できます.写真は宮古島の琉球石灰岩を切る断層群です.
東シナ海の海底では100万年の長い年月で徐々に沖縄トラフと呼ばれる大きな凹み(海盆)が現在進行形で発達しています.そのために凹みの周囲に弧状に島々の連なり(琉球弧)が形成されます.ここでは沖縄トラフ発達中での琉球弧(琉球列島)の形成メカニズムを明らかにすることがターゲットです.
宮古島で一番の景勝地である東平安名崎(ひがしへんなざき)も100万年単位の地殻変動の結果できたもの...と考えると,地球の鼓動のスケールがいかに大きいかを感じとることができます.沖縄での調査は,夏は強い日射や高い気温のために体力消耗が激しく,新潟とは違って冬が調査のベストシーズンです.また夏は台風が襲来するので避けたいところです.
先島諸島(宮古島から西の島々)には海岸よりも内陸に石灰岩の大岩があります.これは「津波石」と呼ばれていて,過去に10mを超える津波が襲来した際に運ばれたものと考えられています.